新雪の立山。風の通り道が分かりますか?
厳冬期の救助で、こんな経験があります。
正月明けに、雄山の頂上付近から 山崎カール(室堂側)に登山者が数百メートル滑落した事故が発生しました。
初代県警ヘリ「つるぎ」に乗り込んで、快晴の立山に向かって富山空港からアルペンルート沿いにアプローチします。
遭難者の近くに降下することは傾斜とヘリのパワーの関係で諦めて、平坦な一の越山荘前の広場に一旦下ろされて遭難者の停止場所まで山腹をトラバース(横断)しながら向かうことになりました。
数日前までの悪天候で新雪が積もり眩しい立山ですが、「一の越」の直下からコルは石や岩が見えています。強風が抜ける「一の越」は、大雪が降っても雪が積もらない場所なのです。
雄山から山崎カールまでのトラバースには、急峻な岩尾根と涸沢状の地形が交互にあって涸沢状地形には雪崩発生時にはデブリが集まって来るのですが、この時はヘリコプターから遭難者の停止位置を確認した際に雪崩が誘発されていなかったので、斜面の雪は安定しているだろうとの判断でトラバースで遭難者の元へ向かいました。
ヘリコプターの機内に搭乗するには、当然アイゼンを履いていては機体が穴だらけになるので登山靴なのですが、降り立つ場所は氷った岩と地面にマダラに雪が張り付いていて・・・「降りた途端に、滑ってコケルだろうなーっ」て、案の定転んでしまい四つん這いでザックを引っ張りながらヘリコプターから離れます。
ヘリが飛び去った後に、アイゼンを装着して遭難者が停止している場所に向けてカチカチに凍った斜面を歩き始めます。
歩き出して30m位で、ほとんど岩が雪に埋まって見えなくなる頃には雪に足首まで潜ってしまいます。
尾根ほどではないけれども、急斜面でそれなりに風が強く吹き付けるのでしょう雪面が締まっていています。行く手を見ると、凍った斜面は無さそうなのでアイゼンを外して遭難者の止まっている場所までツボ足で向かいました。
不安定な雪面をトラバースすれば、足元から雪崩を誘発する危険がありますが今回は大丈夫みたいです。(「沈黙の山」には、「三の越」付近で発生した雪崩が映されています。同じ場所でも、雪の安定度合いは違います)
遭難者が停止していた場所まで来ると、傾斜はゆるく雪は柔らかく膝上から股下まで潜ってしまいます。(滑落すれば、ゆるい斜面・柔らかい雪まで止まらないという事です)
幸い遭難者は、滑落中に岩に激突する事もなく柔らかい雪の積もる場所まで来て止まって、途中で足が捻じれたのか?足首の骨折だけだったような記憶が・・・。(数年後、馬場島で顔を合わせて話をしました)
このように、その場所その場所で雪面の硬さが大きく違うのは地形による「風の通り道」が影響してきます。
観光シーズンの、4月中旬の残雪期・11月下旬の新雪期に立山黒部アルペンルートで室堂まで来れば、白く雪の着いた場所と岩が剥き出しになっている場所が有るのが見れているはずです。
冬山登山をなさらない方でも「なんでやろ」って山を見ていただけたら、山の「奥深さ」を解ってもらえるかな?