阿曽原温泉小屋

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嘘やろⅢ(雪洞五泊目)

2021-03-24

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新雪を被った本峰

馬場島の無線交信から得られた情報では、県警ヘリ「つるぎ」がフライトして捜索に向かうが乱気流と立ち込めるガスで「池ノ谷右股」には侵入できずにいるらしい。

我々「三ノ窓」の訓練隊は、待機指示のまま時間ばかりが過ぎてゆきます。馬場島からは、我々をヘリで早月尾根の現場近くまで輸送しようと考えて天候確認をしきりにしてきます。

しかし「三ノ窓」は普段から風が強い稜線上で、富山湾から見通せている「池ノ谷左俣」が突き上げる場所になり、谷筋で風が集まる通り道となって吹き上げる場所です。

当時の天候は降雪は少ないモノの、池ノ谷左俣からガスが間断なく吹き上げて富山平野側の視界は効かず、なによりコル上に真っ直ぐ立つことが出来ないほどの強風が吹き上げていて「三ノ窓雪渓側」に少し下った場所で強風を凌がねばならず、とてもヘリコプターが近づける状態ではありません。

天候回復が見込めないとの判断で、午後になってから我々に「三ノ窓」でビバーク準備をする様に指示が出されます。

(その後「つるぎ」は、馬場島に一旦着陸したものの天候が悪化して飛び立つことが出来ず、当日は富山空港へ帰投することが出来なくなりました)

小窓尾根隊はテントを持っているのですが、一緒に雪洞を作ることにして全員が横になれる大きな(長い)ものを作り、結局その日はヘリでの人員輸送が出来ず、全員「三ノ窓」の雪洞でビバークすることになったのでした。

夜八時過ぎだったと記憶していますが、暗く淀んだ空気の中であれこれ考えながら寝付けず横になっていると「ズドン!」地響きが一度して雪洞が揺れました。

富山の人間は地震になれていないのもありますが、地面に直接転がっている形になるので強く感じたのか、現実に引き戻されたというか。(気合を入れられた?)

遭難事故を何度も熟し検証して来た身からすれば、常識的に考えてとても助かるような場所と状況だと分かっているのですが・・・冷静に捉えることが出来ないというか、考えるのが罪というか、信じたくないっていうか、でも「ズドン!」一発でトドメを刺されたみたいな・・・現実に引き戻されてしまった自分は、寝袋の中で密かに握りしめたタオルを濡らしながら長い夜を過ごしたのでした。

(ちなみに、地震は富山では観測されておらず、局地的なものだったと後から知りました)

嘘やろⅡ(発生!)

2021-03-23

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快晴の夜明け前の稜線には雪煙が(馬場島より)

岩壁バンドに張り付いた雪のトレースを「三ノ窓」に向かうが、バンド幅は狭いし雪に付けられたトレースは崩れそうに不安定な場所もあります。登りのラストは、ザイルに頼ってバランスをとる事も出来ますが、下る場合はランニングビレイ(中間支点)が自分より低い場所にあるので頼ることは出来ません。

幸い?ガスが湧いて断崖の池ノ谷側の視界が効かず高度感は感じないけど、現場がどれだけ危険な場所だか知っているし、なにより先輩の事故の情報が入ったばかりで平常心で居られるはずがありません。

「三ノ窓」に着くと先行していた小窓隊と合流しますが、それぞれ厳しいコースを頑張って登って何日振りかで顔を合わせた仲間ですが皆言葉少なく・・・。

今後の行動をどうするのか?班長が馬場島の訓練本部と無線交信しますが、訓練本部もそれどころではないのでしょう「その場で待機せよ」との指示が出されたまま対応に追われているようです。

まだ昼前だし行動できない天候でもない、このまま剣岳頂上経由で「カニのハサミ」まで行けばよいのか? 二班合流して人数が増えて行動が遅くなるはずだし、これだけのメンバーがビバーク出来る場所を確保できるだろうか? 広さが確保できる 剱岳頂上 で雪洞を掘った経験があるが、そこを捜索の前線基地にして捜索にあたる?訓練後半で食料補給は? そもそも経験の浅い隊員も含まれているし動揺している我々が普通に登れるのか?

なにより鍛冶さんは大丈夫なのか? 同行していた二名の隊員は、どうしているのだろう?無理して池ノ谷右股に突っ込んでいないだろうか? (昭和54年の正月登山で、「カニのハサミ」の隣にある「シシ頭」で池ノ谷右股へ転落した2名がしばらく生存していた事が解っている)

次々と思いや不安が湧いてくるが・・・どうすることも出来ない。

今シーズンの営業について。(料金改定について)

2021-03-22

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ノンビリしていた訳ではないのですが・・・。

今シーズンの営業について、ご心配をお掛けしております。

基本的には、例年通り小屋建てをして宿泊営業を行う方向でおります。

宿泊定員は、各客室12畳半で6名余に抑えた宿泊人数にする予定です。

ただし今冬の大雪の影響で、大規模な雪崩が発生して大量のデブリの残雪で旧日電歩道・水平歩道が塞がれているかもしれません、夏にルート確認してみないと今シーズンが普通に営業できるかは今現在では分かりません。

なので登山計画を立てられる際には、夏以降このページをチョイチョイ覗いてみてください。

元々小さな小屋なのに収容人員を絞りますので、希望通りの予約を受けることが出来ない事も出て来るかと思います。 

定員オーバーの日が出てくれば、このページでお知らせいたしますので参考にしてください。

料金改定について

まだ正式に決めてませんが、今シーズンの宿泊・テント場利用等々、遅ればせながら料金改定をお願いいたします。

当ページ 小屋情報 に改定金額を載せましたのでご確認ください。(遅くなってすみません、前ページの文書関連で決めかねていました)

北アルプスの山岳を利用される皆さまへ

2021-03-22

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室堂平より剱御前方面(奥に早月尾根)

本日付で、環境省中部山岳国立公園管理事務所と北アルプス山小屋協会の連名で中部山岳国立公園を利用される方々向けに対して

「北アルプスにおける山岳利用についてご理解・ご協力のお願い」

と題した御願い文書を公開させていただきました。 (ホームページトップ にて閲覧できます)

昨年末から「宿題に追われている」と書いておりましたが、今回の文書を公開するにあたり調整等々に当たってきました。 (こんな年に限って持ち回りの、「北アルプス山小屋協会会長」が巡って来てしまい・・)

内容については一読して頂き御理解を得られれば幸いと考えます。 今回のコロナ渦においては全ての業種が被害を被っているところですが、山を預かる我々も今までと同じ経営スタイル・利用方法では立ち行かなるとの危機感の表れであると思っていただければと思います。

北アルプスの中でも方面によっては「キャンプ場利用料」の大きな変更がある場所もありますので、登山計画を立てられる際には事前確認をしっかりされてから入山して頂ければと思います。

正しい雪洞生活?Ⅹ(嘘やろ)

2021-03-21

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「小窓ノ王」池ノ谷側岩壁は険しくそびえて。

翌朝は小雪が舞っているもの、薄いガスで視界も数百メートルあり雪面も案外締まってラッセルの苦労させられる事も無かった記憶が・・・小窓尾根隊は「小窓ノ頭」(2,650m)でビバークしていたらしく「小窓ノ王」基部から先はルート工作が省けて「三の窓」で合流できるはず。

早月尾根隊も、剱岳頂上まで向かっている連絡が入る。順調に行けば、今日中に剱岳頂上で三隊が合流して、上手く行けば早月尾根にトレースが付いているのだから安全地帯の2600mか2400mまで下山することが出来るだろう。

「小窓ノコル」から「小窓ノ頭」に慎重に登ると、稜線上には小窓尾根隊のトレースが「小窓ノ王」に向けて続いています。

「小窓の王」基部 から「三ノ窓」までは、写真で見る通り「池ノ谷左俣」から立ち上がる大岩壁(地形図を参照してもらえば、等高線が書けない岩壁って)

高度感のある岩壁の中、雪が積もった狭い外傾バンドをザイルで確保しながらの下りトラバースになり緊張させられるし慎重になり時間も掛かります。

私はルート始点の岩場で、雪に腰掛けながら前進する隊員を次々とザイルで確保していました。

ガスが濃くなって来て視界が効かず、ザイルの動きで先行する隊員の動きを想像しながら寒さを堪えていた時です、いきなり慌てた声で無線がガサガサと騒ぎだします???

「カニのハサミ」で、鍛冶分隊長が雪崩に巻き込まれて池ノ谷に流されたとの早月尾根隊と馬場島の訓練本部との信じられない交信内容でした。

「嘘やろ!」視界が効かず吹き付ける風の音しかしない酷寒の岩壁で、ラストで確保していた私は近くに話し掛ける人間もおらず、身体の力が抜け宙に浮いた感じで動けなくなった記憶があります。

正しい雪洞生活?Ⅸ(雪洞のありがたさ)

2021-03-20

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春分の日!夕焼けも北に移動して来ました。(新川黒部橋右岸より)

「小窓」は、富山平野側の 「西仙人谷」 は急傾斜で風も強いのですが、風下の「小窓雪渓」は吹き溜まりで風も弱く大量の積雪が有るので雪洞を作るには適地になります。

前に書きましたが正月登山の救助でこの場所でテントを張ったのですが、降雪で動きが取れずテントで一週間ほど沈殿したことがありました。 降雪でテントが圧し潰されそうになって、座りながら背中で押し潰されない様に踏ん張って一日中チョイチョイ外に出てテントの除雪に追われた経験があります。(風除けに雪のブロックで立派な壁を作ったのですが、吹雪きで運ばれるる雪で壁もテントも全て埋め尽くされてしまいました)

雪洞の利点は、キチンと作れば潰される心配がありませんし、入り口が新雪で塞がっても雪の結晶の隙間の空気があるので酸欠もそれほど心配いりません。(盛大にコンをを何台も同時に焚けば✖)

時間は沢山あったのですが・・・前日の長時間行動と寝不足で、ソコソコに穴掘りを止めて湿気て重たい寝袋に潜り込んで、時々入り口の除雪をしに外へ出ますが視界不良のまま雪は降り続いています。

新雪が積もったばかりの不安定な急斜面を無理やり登り返していたら、雪崩を誘発させるリスクが大きかったはず!ここで行動を止めて大正解と納得の沈殿でした。

※富山の雑学

「小窓ノ頭」=コマドノズコ  頭をズコと呼びます。(「ウドノ頭」 ウドノズコ)

「池ノ谷」=イケノタン   谷をタンと呼びます。

どちらも「カシラ」「タニ」と呼ばれることもありますが、富山弁ではズコ・タンと呼ぶと教えられました。

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