阿曽原温泉小屋

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風の通り道!

2020-02-19

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新雪の立山。風の通り道が分かりますか?

厳冬期の救助で、こんな経験があります。

正月明けに、雄山の頂上付近から 山崎カール(室堂側)に登山者が数百メートル滑落した事故が発生しました。

初代県警ヘリ「つるぎ」に乗り込んで、快晴の立山に向かって富山空港からアルペンルート沿いにアプローチします。

遭難者の近くに降下することは傾斜とヘリのパワーの関係で諦めて、平坦な一の越山荘前の広場に一旦下ろされて遭難者の停止場所まで山腹をトラバース(横断)しながら向かうことになりました。

数日前までの悪天候で新雪が積もり眩しい立山ですが、「一の越」の直下からコルは石や岩が見えています。強風が抜ける「一の越」は、大雪が降っても雪が積もらない場所なのです。

雄山から山崎カールまでのトラバースには、急峻な岩尾根と涸沢状の地形が交互にあって涸沢状地形には雪崩発生時にはデブリが集まって来るのですが、この時はヘリコプターから遭難者の停止位置を確認した際に雪崩が誘発されていなかったので、斜面の雪は安定しているだろうとの判断でトラバースで遭難者の元へ向かいました。

ヘリコプターの機内に搭乗するには、当然アイゼンを履いていては機体が穴だらけになるので登山靴なのですが、降り立つ場所は氷った岩と地面にマダラに雪が張り付いていて・・・「降りた途端に、滑ってコケルだろうなーっ」て、案の定転んでしまい四つん這いでザックを引っ張りながらヘリコプターから離れます。

ヘリが飛び去った後に、アイゼンを装着して遭難者が停止している場所に向けてカチカチに凍った斜面を歩き始めます。

歩き出して30m位で、ほとんど岩が雪に埋まって見えなくなる頃には雪に足首まで潜ってしまいます。

尾根ほどではないけれども、急斜面でそれなりに風が強く吹き付けるのでしょう雪面が締まっていています。行く手を見ると、凍った斜面は無さそうなのでアイゼンを外して遭難者の止まっている場所までツボ足で向かいました。

不安定な雪面をトラバースすれば、足元から雪崩を誘発する危険がありますが今回は大丈夫みたいです。(「沈黙の山」には、「三の越」付近で発生した雪崩が映されています。同じ場所でも、雪の安定度合いは違います)

遭難者が停止していた場所まで来ると、傾斜はゆるく雪は柔らかく膝上から股下まで潜ってしまいます。(滑落すれば、ゆるい斜面・柔らかい雪まで止まらないという事です)

幸い遭難者は、滑落中に岩に激突する事もなく柔らかい雪の積もる場所まで来て止まって、途中で足が捻じれたのか?足首の骨折だけだったような記憶が・・・。(数年後、馬場島で顔を合わせて話をしました)

このように、その場所その場所で雪面の硬さが大きく違うのは地形による「風の通り道」が影響してきます。

観光シーズンの、4月中旬の残雪期・11月下旬の新雪期に立山黒部アルペンルートで室堂まで来れば、白く雪の着いた場所と岩が剥き出しになっている場所が有るのが見れているはずです。

冬山登山をなさらない方でも「なんでやろ」って山を見ていただけたら、山の「奥深さ」を解ってもらえるかな?

年に一度の研修会?

2020-02-18

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天気が悪くて、旅館の中で・・・。

宇奈月方面山岳遭難救助隊の研修会で、16日~17日に石川県の片山津温泉へ行って来ました。

毎年みんなで少しづつ積み立てて、私がレンタカーのマイクロバスを運転・お手軽な宿を利用して節約、その分を飲み代に回して???一年に一度のお楽しみ?なのです。

隊員の面々は、救助活動・遭難防止に尽力してもらっている他に、その技術・体力を生かして黒部峡谷一帯でゴミ収集等にも活躍してくれている大切な仲間です。

今回も楽しく騒げて?良い研修が出来ました??? 20日からは、信濃大町で開催される「北アルプス山小屋協会」総会に・・・いつまで呑み続けるのやら?

※出てます!

昨日の午後、お隣の集落で「熊」が目撃されて騒ぎになっています。

普通の冬ならば、冬眠真っ最中のはずなのに・・・。

こんなところで!Ⅵ

2020-02-18

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今朝の自宅前は、湿った雪が少しだけ。同じ雪でも・・・!

続き。

大雑把に言うと、吹き付ける側の斜面は普通に積もって~吹き付ける風が強く当たる尾根付近は締まり雪になって~その先が雪庇になって~その風下が吹き溜まりになる。

雪山経験のある方は分かる人もいるかと思いますが、同じ白い雪でも痩せ尾根の天辺(リッジ)付近の風上側は硬いのですが天辺というか先に行き過ぎると雪庇の先となって真下に尾根が無く踏み抜きかねません、なので塩梅を見ながら少し下がった辺りの締まった雪面を歩きますが、雪庇が怖くて下がり過ぎると雪面が柔らかくなって深雪になって歩き辛くなることがあります。(尾根によって違いますから、鵜呑みにしないで!その場その場で判断する目を養って)

私自身この時期に初めて剣沢に入ったのですが、谷の中に締まり雪があんなに出来上がっている斜面が有るとは知らず慌てさせられたのでした。

今回の雪崩現場は、剣沢という大きな谷の中で前進基地側はパンパンの締まり雪になっていたが、別山尾根の剣沢側の剣山荘下流には吹き溜まり状に雪が溜まってしまい、傾斜が緩いにもかかわらず雪崩が発生してしまったのです。(斜面と積雪があれば雪崩は発生しうる!とのことです)

今回の遭難パーティーは谷の一番底を歩いていたのですが、硬い斜面側に少しコース取りをしたり、一名に上部を見張りをしてもらっている間に他のメンバーは高度を稼ぐ様な歩き方をしていれば、もしかしたらと悔やまれます。(視界不良時に、雪渓を歩く時やってますが同じです)

雪の細かいことを書き出すとキリがないのですが・・・。

良い仕事!

2020-02-16

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拍手してもらえたんだから「良い仕事」だったんです。

昨日より、富山県教育文化会館で開催された「とやま映像祭2020」で「沈黙の山」が大画面で上映されるとのことで観に行って来ました。

上映が終わった後に、製作したチューリップテレビ「五百旗頭(いおきべ)ディレクター」があいさつに壇上に上がって解説しました。

「弥陀ヶ原に向けてのゴンドラリフト構想が棚上げになった」

「おかしいと思っていても、言えない・声を出せない雰囲気になっていないか」

「富山にも民主主義が残っていた」

みたいなことをユーモアを交えながら話すと、会場から拍手が沸き起こって・・・私はおもわず「嬉し涙」がこぼれそうになりました。

県の進める政策に、真っ向から疑問を呈することになってしまう?この番組を制作・放映するまでは苦労も沢山あったはずで個人的に心配もしていました。

あの拍手!自分を信じて頑張って来た製作クルーには、何よりの御褒美だったのではないかと思います。

こんなところで!Ⅴ

2020-02-14

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大窓の頭~池の平山~小窓尾根

続き。

この時に強く思ったのが、同じ白い雪面でも「風の通り道と風の弱い場所では大違い」と改めて思い知らされました。

その場所の雪の積もり方によってはパンパンに締まった雪面にもなるし、吹き溜まりの場所はゆるく積もって不安定になっている可能性があるということです。

今回の現場では、「六字塚」から下部の斜面は立つことが出来ないくらいの締まり雪!

剣山荘横から剣沢下流側にかけての斜面には、ゆるく積もった雪がたまってしまったのです。

結果論というか教訓として、積雪状況を頭に入れながら上部斜面が安定した場所を登り返すことが出来ていたら二人も亡くならずに済んだのでは・・・。登り易さ?安心できる夏と同じコース?硬い斜面を避けた???等と後の祭りなのですが・・・避けることが出来たのではないかと思ってしまいます。(そもそも天気予報で降雪予測は出来なかったのか?入山時は積雪前だったのでは、ベースの雪面の状態を見ていたのだろうか?少なくとも、上部に注意を払っていれば逃げられたのでは?)

雪崩の発生について、研究者の話を聞くと「斜面と雪がが有れば、どこで発生しても不思議ではない」との事ですが、吹き溜まりに積もる雪は風で雪面上を転がりながら運ばれるときに結晶が壊されて雪同士がくっきにくくなると聞いたことが有ります。(霜ザラメの発達等、他要因で発生することも!)

クロユリのコルから剣山荘裏側・一服劔手前斜面には残雪が遅くまで残ります。(なんで残るのか?)

富山平野側から吹き付ける季節風が、別山尾根を越えたところで吹き溜まりとなって大量の積雪を残してしまうのでしょう。

先に大日岳の巨大な雪庇の話をしましたが、尾根の風下側に発達した雪庇直下の雪面は吹き溜まりで柔らかかったとのことです。(一度、気温・雪温が上るまでは)

ちなみに立山黒部アルペンルートの 「雪の大谷」 には、4月中旬の開業当初は20mの雪壁が出来ますが、少し離れた室堂平には半分も積もりません。これは、雪が積もる際に雪面が平らになる様に積もるからだそうで、風が弱まる谷の中には大量の雪が残って風が強い吹きっさらしの場所には積雪が少なくなってしまうそうです。(尾根の風下も平原の谷を埋めるのも、風が弱まって溜まるのだから吹き溜まり)

雪のこと書き出したら、まとまんないし~っ・・・収拾がつかなくなってきた。だれか止めて~! 続く~っ。

(今夜から飲み会が・・・書く元気が残るのであろうか)

こんなところで!Ⅳ

2020-02-13

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二代目「とやま」の訓練

続き。

徐々に現れてくるジャケットやパンツの向きから頭部を割り出して、ダメとは思いつつも声を掛けながらシャベルを振るい頭の辺りはグローブで雪を掻き出します。

横向きに埋まっていた女性の蒼白の顔面を出してあげますが、グローブを介して顔面の硬直具合が手に伝わって来て・・・埋まりながら呼吸をしようとしていたのか?口元を少し開いて目を強くつむり少し苦しそうな表情に見えます。

頭を引き起こしますが呼吸・心拍共になく、持ち上げた頭部は妙に重くて・・・グローブを外して素手で頬を触り瞼を開けてみますが瞳孔は開いており、ただただ無慈悲に冷たさが手に伝わって来るばかりです。

被った目出帽の縁から、濡れた髪の毛がはみ出して額から頬にかけて張り付いていて・・・それがなんとも可哀想というか無力感に沈みそうになりますがモタモタしている暇はありません、ヘリコプターが飛べる天候の間に帰らないとエライことになります。

テキパキと本部に無線連絡しつつ遺体収納袋に遭難者に納めてロープで締め上げます。 締め上げる!って可哀そうですが、少し我慢してもらわないとワイヤーで吊りながら一時的に移動するので、収納袋自体の強度が心配なのでロープで荷重が分散される様にする必要があるし、収納袋の中で遭難者が偏ったり袋が緩むと危険なのです。

日没に向けて、薄暗くなるし気温は下がるし少し不安になりましたが・・・ヘリコプターが飛んで来てくれて、数回に分けて遭難者と我々をピックアップしてくれて一件落着したのでした。

続く。

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