閉所恐怖症には無理!(狭いシュルンド話)
2019-07-29
剱沢勤務の夏のある日、剱岳西面を登攀中のクライマーが転落したとの通報が入りました。
新人隊員だった私は現場も分からず、取りあえず準備を整え先輩達と頂上越えで現場に向かいますが通報者と合流した長次郎のコルですでに日没直前、夜間に向かうには危険過ぎるとのことでビバークして、翌朝現場に通報者に誘導されるまま現場に向かいました。
当時の私は剱岳の岩場の知識はあんまり無く、向かう途中アッチコッチで落石は発生しているし「ショッパイ」コースだな~って着いて行った先で
「岩壁から転落して、あのシュルンドに入ってしまいました」って
池の谷右又であろう雪渓から、岩壁に伸びる急峻で細いルンゼに残る雪渓の上縁に空いた狭いシュルンドです。
入り口は高さ1m位ですが、奥に向えば狭く細くなっているであろうことは容易に想像がつきます。
家の二階から階段上に低いトンネルを作って、四つん這いで一階に向かって降りてゆく・・・表現が難しいのですが、とにかく細い急傾斜でグズグズの岩屑のトンネルを下を向いて降て確認に。
正直気は進まなかったのですが、一番若い隊員だったので・・・。人間が吸い込まれた穴なんだから、上部で発生した落石は間違いなくこの穴に入るよな~、逃げ場は・・・なんてことを思いながら。(遭難者を担いで岩場を下降中に、上部で発生した落石をサポート隊員が脚で蹴って逸らせたって伝説が有りますけども・・・不安!)
ザレ場のルンゼを、蟻地獄の様にずり下がらない様にベルトにロープを固定して頭から下方に向いて下り始めます。
最初は、膝を立てて入って行けたのですが・・・徐々に天井が低くなってきてホフク前進状態になります。(映画「大脱走」的な!わかんないかな?)
進むにつれて入り口からの光は自分の身体が遮って真っ暗に、ヘルメットに固定してあるヘッドランプは天井の雪渓に擦れて関係の無い場所を照らして前が見えずに腹ばいで下って行くと、前に伸ばした軍手を付けた手に硬いけど石ではない感触が・・・手を引き寄せて目の前でライトを当てると、泥と血に塗れた軍手が血生臭くって。
背中は雪渓に当って、狭く動けないのですが少しずり下がり遭難者の足にロープを縛ってから方向転換も出来ず腕力で入り口方向にずり上がりながら、安全な所でロープを引く?先輩たちの声に合わせながら遭難者の足を引きずって尻からシュルンドを這い出して来たのでした。
後から現場は 「剱尾根」 クライミング技術の未熟な新人隊員が近寄るなど畏れ多い超難所だったと知らされたのでした。
もし転落後に強い雨でも降ろうものなら、シュルンドは元々沢なので水が集まり流れて遭難者は奥へ奥へとズリ下げられて万年雪の下に潜り込んでしまう可能性も、そうなれば家族の元に帰る事は出来なかったかもしれないし、少なくとも発見収容までは相当な日数が掛ったでしょう、そうなれば後に対面する御遺族のことを思うと・・・察しがつきますか????少しでも早く返してあげるのが一番なのです。
狭く動きの取れない氷の穴は、今の私の体格では絶対無理な作業でした。良い子は、絶対に真似してはいけませんから!
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